☆つかんだ「宮前区No.1」
大村コーチ
「宮前区ナンバーワンのチームになる」。このスローガンをかかげたのは、2019年のクリスマス会だったでしょうか。今どき珍しい1学年13人という選手をそろえ、その年6月の子ども会大会では準優勝。確かにあのとき、5年生になる直前の現Aチーム選手にとって、それは夢ではない話に思えたものです。
しかし、現実は厳しかった。コロナ禍による長期の自粛生活でリズムの狂った5年生時は苦杯を舐め続け、6年生になってベスト4以上の力は持つようになったものの、一番頂点に近づいたジャビットカップでも1点に泣き準優勝に終わりました。スローガンは達成できないまま卒団していくのか…そんな中で最後の大会として滑り込みで参加が決まった青葉カップ。そこで子どもたちは、やってくれました。
●巴戦第1試合vs佐江戸少年野球部
12月4日、初戦は会場の佐江戸公園をホームとする佐江戸少年野球部さん。先攻の神木は1回、2回と三者凡退に倒れイヤなムードが漂うも、先発のヒカルもしっかり相手打線を封じていきます。試合が動いたのは3回表。先頭打者の7番ヒロキがレフト前ヒットで口火を切ると、続く8番リクトがショートへ内安打。9番トウマはワイルドピッチを呼び込んで1死2、3塁の好機を作ります。
ここで1番リュウノスケの当たりが相手三塁手を襲ってタイムリー内野安打。さらに2番ナルキのショートゴロの間に1点、3番テルキの適時右前打と、この回3点を先制します。4回表には5番カンジがレフトオーバーの二塁打で出塁、6番ユウダイが左中間へタイムリー。リードを4点に広げました。
4回からはナルキが継投。先頭打者に二塁打を浴びるも、セカンドライナーをヒロキ、テルキと転送してゲッツーに取るなど、好守がもり立てます。6回に2ランを浴びましたが、4回を投げきってくれました。4-2で初戦突破です。
●巴戦第2試合vs茅ヶ崎エンデバーズ
すぐに息つく間もなく巴戦の第2戦。相手は茅ヶ崎エンデバーズさん。神木は1回裏、2番ナルキが四球で出塁するとすかさず盗塁。続くテルキはサードへ内安打、ヒカルも四球でいきなり無死満塁の大チャンス。5番カンジを迎えたところでワイルドピッチでまず1点、さらにカンジも四球を選び、一気にビッグイニングをという期待を集めた6番ユウダイの打球はしぶとく中前打に。これでもう一点が入りますが、1塁走者は2塁で封殺されて2アウト。7番ヒロキは四球で出塁するも8番リクトが倒れ、この回2点どまり。なかなかビッグイニングを作れない悪いクセが出てしまいます。
先発ヒカルは2回を投げきって零封。ですがもうこの日70球に到達しました。ナルキも前試合で59球。ほとんど残り球数がありません。このピンチを救ったのが、密かに「東名下ブルペン」でピッチング練習を重ねてきたリュウノスケです。
独特の高いリリースポイントから高い軌道を維持しつつ、ホームベース付近で急激に落ちる球筋が相手打者を翻弄し、凡打の山を積み重ねて3回をソロ被弾による1失点でしのぎます。
さらに三人目の投手は、公式戦初登板となるヒロキに託しました。緊張からか投げ急ぎそうな様子にベンチはもちろん内外野から「落ち着け」と声が飛びます。みんなの応援に力を得て1回3分の1を無失点。見事ぶっつけ本番のクローザー役を果たしました。2-1というしびれるスコアで翌日の準決勝進出を決めます。
直後、大会本部の裏にあるトーナメント表を確認すると、やはりというべきか、反対側のヤマで勝ち上がってきたのは、富士見台ウルフさん。今季はジャビットカップを除き宮前区少年野球連盟主催の春季大会、防犯大会、子ども会大会、秋季大会をすべて制した宮前区の絶対王者で、神木は3年生のオレンジボール時代からも含めて一度も勝てていません。4年生の子ども会大会決勝で立ちはだかった相手でもあります。しかし、ここで打倒ウルフを果たせれば、「宮前区No.1のチームになる」というスローガンが達成できます。
●準決勝vs富士見台ウルフ
果たして翌5日、大場かやのき公園で、準決勝第二試合としてウルフとの決戦が始まりました。
先攻の神木は初回、1番リュウノスケの当たりがショート奥深くを襲い内安打。2番ナルキも同様の場所にはじき返したものの、6-4と渡ってリュウノスケが封殺され1死。続くテルキは得意の右打ちを見せ1死1、2塁としますが、4番ヒカルの打球は相手ショートに好捕され、ナルキが3塁で憤死。5番カンジが倒れてこの回先制点とはなりません。ここで1点でも取れていれば、この後の試合展開は全く違っていたでしょうが…
ただ、先発マウンドは、ここまで5年生の第四カップ以来、ウルフ戦で無失点を続け、宮前区内ではウルフ・キラーとして知られるナルキ。ほぼ平面のマウンドからサイドスローの低いリリースポイントが相まって、高めに浮き上がってくるような速球が威力を発揮。3回には三者連続空振り三振を奪う快投を見せます。
しかし、神木打線も沈黙。外角へのボールの出し入れで勝負する制球力抜群の相手投手に苦しめられます。守備も絶対王者らしく鍛えられていて隙ナシ。出塁はするもののクリーンヒットが出ないまま、どんどんイニングが進んでいきます。
ナルキは6回2死まで零封し70球到達。後を受けたのはやはりヒカルです。1番打者にフルカウントまで粘られた9球目、ライトに上がった打球が抜けそうなところへ飛んでいきます。しかし、ここでライト・コウタロウががっちりキャッチ。守備固めの大役をきっちり果たしました。
ついに最終7回、神木最後の攻撃です。1死から2番ナルキがレフト前にクリーンヒット。3番テルキの進塁打で2死2塁として4番ヒカル。ツーストライクと追い込まれながらも甘い球を見逃さずにセンター前へ抜ける痛烈な当たり。ナルキの快足ならば、これで待望の先取点!と誰もが思いました。しかし、ナルキは3塁を大きくオーバーランしたところでストップ。コーチャー・テルキの判断でした。次打者の5番カンジに神木ベンチ・応援席から大声援が飛びますが…ファーストフライ。1点が遠い。
これまでのパターンなら、その裏で打たれてサヨナラ負け。しかし、ここから最後の意地を見せてくれました。7回裏、2番から始まる相手打線でしたが、先頭打者をファーストフライに仕留めると、この日も初回に二塁打を放っている3番打者に対し、ヒカルが厳しい攻めの投球。2-2の平行カウントから、最後は低め速球を振らせて三振を奪い、ヒカルが珍しく派手にガッツポーズ。後続も打ち取り、この回ゼロに抑えます。
7回を終わって0-0という、少年野球ではほぼあり得ない展開です。どうなるのかと思いきや、8回表裏1イニングのみ双方1死満塁からのタイブレークで行い、決着をつけるとのこと。大変なことになりました。
先に神木の攻撃、ここで打席には「意外性の男」ユウダイ。期待は高まりましたが初球をショートフライ。ヒロキは粘ってセンターにライナー性のフライを放ちますが、正面すぎてセンターフライ。タイブレークなのに0点で攻撃終了。
もはや勝ちはなくなった崖っぷちの状況で、裏のウルフの攻撃を迎えます。サヨナラスクイズを警戒して前進守備を命じ、勝負に出た石坂監督。スクイズは警戒しなければならないが、ボール先行にもしたくないという非常に難しい場面ですが、ヒカルは初球ストライク。ベンチも母たちも全員で声をからして声援を送ります。そして運命の2球目、打球はワンバウンドでピッチャー前へ。がっちりつかんだヒカルからキャッチャー・ナルキに送球され2アウト、ナルキから強肩発動でファースト・リュウノスケに転送、打者走者と重なりそうなところをリュウノスケが体を入れ替えて好捕して、あっという間に3アウト。1-2-3の理想的なホームゲッツー、これしかないというビッグプレーをこの場面で決めてくれました!
渾身の雄叫びと拳を突き出して喜ぶ3人に、他のナインも駆け寄ってまるでサヨナラ勝ちしたかのように盛り上がったものの、8回表裏も無得点でまだ決着はついていません。どうするのかと思えば、なんと最後は両軍によるじゃんけん合戦で決着とのこと。
ここまで来ると、もはや無心で臨むしかありません。「じゃん、けん、ぽん!」。大会関係者の差し出したグーに対して、パーは神木5人、ウルフ2人。
勝ちました。ついにウルフに勝ちました。たとえ最後はじゃんけんであろうとも、勝ちは勝ちです。そしてこれによって間接的にとはいえ「宮前区No.1のチームになる」という悲願が達成されました。選手、ベンチスタッフ、応援の母たちも抱き合って歓喜爆発!最高の瞬間でした。
●決勝vs竹山レッドソックス
あまりの激闘にしばし放心状態になりそうでしたが、それに浸っている余裕はまったくありませんでした。かやの木グランドから大急ぎで前日2試合した佐江戸少年野球場へ移動して決勝を戦わなくてはなりません。全員、あわててクルマに乗り込み佐江戸少年野球場に向かいます。車中で軽食を食べるのが精一杯で、グランドインするやいなやほぼノータイムで試合開始。ベンチスタッフも当初は石坂監督とスコアラー大村しかいないという有様でした。
こんな状況でプレイボール。先攻の神木は無得点。その裏、大型選手が揃い、見るからにバットの振れている竹山レッドソックスさんに対し、神木はヒカルが先発です。先頭打者を空振り三振にとって好発進したものの、次打者はサード前セーフティーバントを敢行。悪送球とカバーの遅れ、さらに中継ミスで一気に本塁生還を許してしまいます。なんとか後続を打ち取って1点に抑えますが、波乱の幕開けとなりました。2回は先頭打者に2塁打を浴びバント、スクイズで1点を追加されますが、ここではセカンド内安打で出塁した走者の盗塁を捕手ナルキが刺してチェンジ。3回は相手の3、4番を連続空振り三振に取って0点。ここでヒカルは70球に到達です。4回からはリュウノスケに継投。この回1死から連打を許し1、2塁のピンチを背負うも、なんとかしのぎます。
一方、神木打線はウルフ戦から続くゼロ行進。2、3回は三者凡退し4回は2者が出塁するもチャンスを活かせません。5回も三者凡退。6回は2死からナルキがショートへの内安打で出塁しテルキが四球、ヒカルが死球で満塁のチャンスで5番カンジを迎えましたが、あえなく三振に終わります。リュウノスケが5、6回とヒットやエラーで走者を背負いながらもなんとかしのいでいただけに、無念が募ります。
2点ビハインドのまま迎えた最終回。このまま終わってしまうのかと思いきや、ユウダイがストレートの四球を選び出塁、続くヒロキもラッキーな出塁。ウルフ戦でも終盤にキラリと光るプレーを見せたコウタロウがきっちり送りバントを決め、1死2、3塁。さらにトウマも四球で満塁とします。ここで1番に返ってリュウノスケ。二球目を中前に落としてタイムリーとします。が、1塁走者は二塁で封殺。二死1、3塁でナルキを迎え一打逆転に賭けます。選手もベンチスタッフも応援母も最後の声援で後押ししましたが、残念ながらファーストフライ。1-2でゲームセットとなりました。
●やりきった準優勝
かつて神木マーキュリーズは青葉カップに優勝したことがあります。2013年、後に横浜高校に進み甲子園に出場した山口先輩が投打の中心だった時代です。それ以降、そもそもチームの存続さえも危うい時代を経て2021年、準優勝。たらればを言えばきりはありませんが、この結果は十分誇れるものでしょう。表彰式に臨んだみんなの顔は、敗者の顔ではありませんでした。
多くのチームの6年生がもう引退している12月、本気で野球の試合をして3つも勝った、あのウルフにも勝った。とてもいい経験ができました。中学校で野球を続ける部員も、そうでない部員も、いつか「あの冬の日に俺たちはやりきったんだ、勝ったんだ」ということを思い出して、自信と勇気に変えてくれたら、コーチ陣にとって、こんなうれしいことはありません。
おめでとう、そしてこれからも頑張ってください。